金属アレルギー歯列矯正の成功事例とポイント
金属アレルギーを持つ患者さんが歯列矯正治療を希望された場合、どのようなアプローチで進めていくのか、具体的な事例を通じて見ていきましょう。30代女性のAさんは、上下顎の歯の凹凸と口元の突出感を主訴に来院されました。問診の際、過去に金属製の腕時計やネックレスで皮膚にかぶれを生じた経験があることが分かり、金属アレルギーが疑われました。そこで、治療開始前に皮膚科でのパッチテストを推奨し、その結果を持参していただきました。テストの結果、Aさんはニッケルとパラジウムに対して陽性反応を示しました。これらの金属は、一般的な矯正装置のブラケットやワイヤー、さらには歯科用合金にも含まれることがあるため、慎重な材料選択が求められました。Aさんの希望は、できるだけ目立たない装置で、かつ確実に歯並びを改善したいとのことでした。複数の選択肢を提示し、それぞれのメリット・デメリットを説明した結果、上顎には透明なセラミックブラケット、下顎にはより強度の高いジルコニアブラケットを選択し、ワイヤーはニッケルやパラジウムを含まないβチタンワイヤーを主体に使用する治療計画を立案しました。また、治療期間中に使用する可能性のある補助装置(例えば、顎間ゴムをかけるためのフックなど)についても、可能な限りアレルギーリスクの低い素材で対応できるよう事前に準備を整えました。治療開始後は、定期的な調整のたびに口腔粘膜の状態を注意深く観察し、アレルギー症状の兆候がないかを確認しました。Aさんにも、何か異常を感じたらすぐに連絡するようお伝えし、密なコミュニケーションを心がけました。幸い、治療期間を通じてAさんにアレルギー症状が現れることはなく、歯の移動も計画通りに進みました。約2年半の動的治療期間を経て、歯並びと口元の突出感は大きく改善され、Aさんも大変満足されたご様子でした。保定装置についても、金属部分にはアレルギー対応の素材を使用しました。この事例から学べることは、事前の正確なアレルギー検査、それに基づく適切な材料選択、そして治療中の細やかな経過観察と患者さんとの連携が、金属アレルギーを持つ方の歯列矯正治療を成功に導くための重要なポイントであるということです。