開咬の治療は、その根本原因の究明と改善を目指し、矯正歯科を専門とする歯科医師による精密な診断と、それに基づいた科学的な治療計画の実行が基本となります。しかしながら、この専門的な治療をより効果的に進め、得られた良好な結果を長期的に維持するためには、患者さん自身が行う適切なセルフケアもまた、非常に重要な役割を担います。ここで明確に強調しておきたいのは、セルフケアのみで開咬という不正咬合を「治す」ことは不可能であり、その役割には明確な限界が存在するということです。セルフケアは、あくまで専門的な矯正治療を円滑に進めるための補助的な手段であり、治療効果を高めたり、治療期間中に起こりうるトラブルを未然に防いだり、そして治療終了後の後戻りを最小限に抑えたりすることを主たる目的として行われるものです。例えば、開咬の誘因の一つとして舌突出癖(嚥下時や発話時に舌を前歯の間に押し出す癖)や慢性的な口呼吸が認められる場合、歯科医師や言語聴覚士の専門的な指導のもとで実施される筋機能療法(MFT: Myofunctional Therapy)は、効果的なセルフケアの一環と言えます。これは、舌や唇、頬といった口腔周囲筋の正しい使い方を習得し、筋肉のバランスを整えるためのトレーニングであり、矯正治療と並行して行うことで、治療効果の向上や治療後の安定性、特に後戻りのリスクを軽減することが期待できます。ただし、このMFTも自己流で行うのではなく、必ず専門家の指導に基づいて正しい方法論で根気強く実践することが不可欠です。また、矯正治療期間中の徹底した口腔衛生管理も、患者さんが担うべき非常に重要なセルフケアです。矯正装置を装着していると、どうしても歯ブラシが届きにくいデッドスペースが生じ、プラーク(細菌の塊)が蓄積しやすくなります。このプラークが虫歯や歯周病の直接的な原因とならないよう、歯科医師や歯科衛生士から指導された適切な歯磨きの方法(通常の歯ブラシだけでなく、歯間ブラシ、タフトブラシ、デンタルフロスといった補助的な清掃用具を効果的に活用することを含む)を毎食後丁寧に実践する必要があります。食事の内容に関しても、硬すぎるものや粘着性の高い食品は、矯正装置の破損や脱離を引き起こす可能性があるため、避けるか、小さく切って食べるなどの配慮も、広義のセルフケアに含まれると言えるでしょう。
開咬治療とセルフケア!役割分担と限界の認識