歯列矯正治療を受けた方から、「鼻が高くなったように見える」という感想を聞くことがあります。実際に鼻の骨格が変わるわけではないのに、なぜでしょうか。これは、主に視覚的な錯覚と、顔のパーツの相対的なバランスの変化によるものです。私たちの脳は、目から入ってきた情報を処理し、物体や顔の形を認識しますが、その際には周囲の状況や他のパーツとの比較によって、見え方が影響を受けることがあります。歯列矯正で最も変化するのは口元です。特に、前歯が前方に突出している、いわいわゆる出っ歯の状態では、唇も前に押し出され、口元全体が顔の前方に出っ張った印象になります。この時、鼻の高さや形は変わらなくても、突出した口元に視線が引きつけられたり、口元が顔全体のバランスの中で目立ってしまったりすることで、相対的に鼻の存在感が薄れたり、埋もれたように見えたりすることがあります。歯列矯正によって前歯が後方に移動し、口元の突出感が改善されると、顔の前面に出ていた口元がすっきりと収まります。すると、今まで目立たなかった鼻のラインがはっきりと見えるようになり、特に鼻の付け根から鼻先にかけてのシルエットが強調されます。これにより、実際には鼻の高さが変わっていなくても、以前よりも鼻が高く、すっと通ったように見えるのです。これは、一種のコントラスト効果とも言えます。背景となる口元が引っ込むことで、手前にある鼻がより際立って見えるというわけです。また、Eラインという、横顔の美しさの基準とされるラインも関係しています。Eラインは、鼻の先端と顎の先端を結んだ線のことで、理想的な横顔では、唇がこの線の内側にわずかに触れるか、少し内側にある状態とされています。出っ歯の場合、唇がEラインよりも前に出てしまうことが多いのですが、歯列矯正で口元が引っ込むと、Eラインが整い、美しい横顔のプロファイルが得られます。このEラインの改善は、顔全体のバランスを良く見せ、結果として鼻の印象も向上させる効果があります。さらに、鼻の下から上唇にかけての角度である鼻唇角の変化も影響します。出っ歯の場合、この角度が鋭角になりがちですが、口元が引っ込むことで鼻唇角が適度な角度に開くと、鼻の下がすっきりとし、鼻全体のバランスが整って見えることがあります。これらの要因が複合的に作用することで、歯列矯正後に印象の変化が生まれるのです。
歯列矯正で鼻が高く見えるのはなぜ?錯覚のメカニズム