歯科医師が警鐘!市販歯列矯正マウスピースの落とし穴

近年、手軽さを謳い文句にした市販の歯列矯正マウスピースが市場に出回っていますが、矯正歯科医の立場から見ると、これら製品の使用には大きな懸念があり、警鐘を鳴らさざるを得ません。多くの消費者は、歯科医院での矯正治療が高額で時間がかかるというイメージから、安価で手軽な市販品に魅力を感じてしまうのかもしれません。しかし、そこには重大な落とし穴が潜んでいます。まず、市販のマウスピースは、医療機器としての承認や科学的なエビデンスが確立されていないものがほとんどです。個々の歯並びは千差万別であり、歯を安全に動かすためには、精密な検査に基づく歯科医師の診断と、それに基づいたオーダーメイドの治療計画が不可欠です。既製品や、自己流で採取した不正確な歯型で作られたマウスピースでは、個々の歯や顎の形態に適合せず、適切な矯正力を加えることができません。これにより、期待した効果が得られないばかりか、歯肉の炎症や退縮、歯根の吸収、さらには顎関節への悪影響など、様々なトラブルを引き起こすリスクがあります。特に深刻なのは、噛み合わせの崩壊です。歯並びは、見た目の美しさだけでなく、食事の際の咀嚼機能、発音、そして顎関節の健康など、口腔全体の機能と密接に関連しています。安易に歯を動かそうとすることで、これらの機能的なバランスが崩れてしまい、かえって深刻な問題を引き起こす可能性があります。一度崩れた噛み合わせを元に戻すには、専門的な知識と技術が必要となり、結果的に時間も費用も余計にかかってしまうことも少なくありません。「安物買いの銭失い」では済まされないのが、ご自身の健康に関わる問題です。また、市販品には、歯科医師による定期的な経過観察や調整が一切ありません。矯正治療中は、歯の動き具合や口腔内の状態を専門家がチェックし、必要に応じて治療計画を微調整していくことが不可欠です。何か問題が生じた場合でも、早期に発見し対処することができます。しかし、市販品を使用している場合、問題が悪化するまで気づかなかったり、適切な対処法が分からなかったりする危険性があります。消費者庁や国民生活センターにも、市販の歯列矯正関連製品に関するトラブルの相談が寄せられています。これらの事例は氷山の一角であり、潜在的なリスクは非常に大きいと言わざるを得ません。