高校で吹奏楽部に所属し、トランペットを担当しているT君は、中学時代から上の前歯が出ていること、いわゆる出っ歯に悩んでいました。演奏の際にも、アンブシュア(楽器を吹く時の口の形)が安定しにくく、音が出しづらいと感じることがありました。高校入学を機に、両親に相談し、歯列矯正を決意。しかし、T君には大きな懸念がありました。それは、「矯正装置をつけたら、トランペットが吹けなくなるのではないか」ということです。矯正歯科でのカウンセリングの際、T君はその不安を正直に歯科医師に伝えました。歯科医師は、吹奏楽部で管楽器を演奏している患者さんの矯正治療経験も豊富で、いくつかの選択肢とそれぞれの注意点を説明してくれました。表側のワイヤー矯正の場合、唇の内側にブラケットが当たるため、特に金管楽器の演奏には慣れが必要であること、場合によってはプロテクターを使用することも考えられること。一方、歯の裏側に装置をつける舌側矯正や、取り外し可能なマウスピース型矯正であれば、演奏への影響は比較的少ないが、それぞれにメリット・デメリットがあること。T君は、歯科医師や吹奏楽部の顧問の先生とも相談し、最終的に表側のワイヤー矯正を選択しました。ただし、ブラケットはできるだけ小さく、角の丸いものを選んでもらい、ワイヤーも唇に当たりにくいように調整してもらうことになりました。治療開始当初は、やはり唇の内側にブラケットが当たり、痛みを感じたり、アンブシュアが定まらなかったりして、思うように音が出せない時期もありました。しかし、T君は諦めませんでした。歯科医師からもらった矯正用ワックスをこまめに使い、唇を保護しながら、毎日少しずつ練習を重ねました。徐々に唇が装置に慣れ、新しいアンブシュアの感覚を掴んでいくと、以前よりも安定した音が出せるようになってきたのです。そして、矯正治療が進み、前歯の突出が改善されてくると、さらに息がスムーズに入るようになり、音質も向上したとT君は感じています。「最初は不安でいっぱいでしたが、先生や部活の仲間たちのサポートのおかげで乗り越えられました。歯並びが良くなっただけでなく、トランペットの演奏にも良い影響があって、本当に矯正して良かったです」とT君は笑顔で語ります。