インターネットやソーシャルメディア上では、時に「開咬を自分で治す方法」といった、一見手軽で魅力的に思える情報が拡散されていることがあります。しかし、これらの情報は医学的・科学的な根拠に乏しく、鵜呑みにして実行することは極めて危険であり、絶対に試みるべきではありません。開咬という不正咬合は、単に歯の並びが悪いという表面的な問題だけでなく、顎の骨格の形態、顎を動かす筋肉のバランス、さらには顎関節の機能など、非常に複雑かつデリケートな要素が相互に絡み合って生じている状態です。矯正歯科の専門的な知識や技術を持たない個人が、不適切な方法で歯に力を加えたり、口腔内の環境を無理やり変えようとしたりする行為は、取り返しのつかない深刻な問題を引き起こす可能性が非常に高いのです。例えば、輪ゴムや市販されている正体不明の器具を用いて自己流で歯を動かそうとすると、歯の根が吸収されて短くなってしまったり、歯が異常にグラグラと動揺したり、最悪の場合には健康な歯が抜け落ちてしまうといった壊滅的な事態を招く危険性があります。また、歯を支える歯周組織(歯茎や歯槽骨)に過度な負担が継続的にかかることで、歯肉炎や歯周病を急激に悪化させることも十分に考えられます。特定の歯だけに不適切な方向や強さの力が加わることで、噛み合わせ全体のバランスがさらに崩れ、開咬の症状が悪化するだけでなく、顎関節に異常な負荷がかかり、顎関節症(顎の痛み、開口障害、関節雑音など)を新たに発症したり、既に存在していた顎関節症の症状を著しく悪化させたりするリスクも著しく高まります。さらに、自己流の「トレーニング」と称して、舌や口の周りの筋肉に不自然な動きを強いることも極めて危険です。専門家による正しい指導なしにこれらの運動を行うと、かえって不適切な筋肉の使い方の癖を助長してしまったり、顔面や顎の筋肉のバランスをさらに崩してしまったりする可能性があります。開咬の原因は非常に多岐にわたり、個々の患者さんの状態によって最適な治療法は全く異なります。歯科医師は、レントゲン撮影(セファログラム分析を含む)、歯型の採取、顔面や口腔内写真の撮影といった精密な検査を通じて、開咬の根本原因を正確に診断し、その診断結果に基づいて科学的根拠に基づいた個別の治療計画を立案します。
「開咬を自分で治す」という行為の重大な危険性