いびきと歯並び矯正治療の影響を医師が解説
歯列矯正治療といびきの関係について、患者さんからご質問をいただくことがあります。「矯正を始めたらいびきが悪化した気がする」あるいは逆に「矯正でいびきが治りますか」といった内容です。まず、いびきの主な原因は、睡眠中に喉の奥にある気道(空気の通り道)が何らかの原因で狭くなり、そこを空気が通過する際に粘膜が振動することです。気道が狭くなる要因としては、肥満による首周りの脂肪沈着、扁桃腺の肥大、加齢による筋肉のたるみ、そして舌根沈下(舌の根元が喉の奥に落ち込むこと)などが挙げられます。歯並びや顎の位置関係も、この気道の広さに影響を与えることがあります。例えば、下顎が小さい、あるいは後退している場合(下顎後退症)、舌が収まるスペースが狭くなり、仰向けで寝た際に舌根沈下を起こしやすく、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクが高まることが知られています。このようなケースでは、歯列矯正治療によって下顎を前方に誘導したり、歯列を拡大して舌のスペースを広げたりすることで、気道が確保され、いびきが改善する可能性があります。実際に、SASの治療法の一つとして、下顎を前方に移動させる口腔内装置(スリープスプリントなど)が用いられています。一方で、「矯正を始めたらいびきが悪化した」というケースについてですが、これはいくつかの可能性が考えられます。まず、矯正装置、特に舌側に装着する装置や厚みのあるマウスピースが、一時的に舌の動きを妨げたり、舌を後方に押し下げたりすることで、気道を狭めてしまう可能性です。また、治療初期の痛みや違和感による睡眠の質の低下も、いびきを誘発する間接的な要因となり得ます。しかし、これらは多くの場合一時的なものであり、装置に慣れるとともに改善することが期待できます。もし、歯列矯正中にいびきの悪化が顕著で、日中の眠気や倦怠感なども伴うようであれば、SASの可能性も考慮し、矯正歯科医だけでなく、睡眠専門医にも相談することをお勧めします。