「手軽に歯並びを治せる」という謳い文句に惹かれて市販の歯列矯正マウスピースを購入したものの、期待した効果が得られなかったり、かえって歯並びが悪化してしまったりするトラブルが後を絶ちません。実際に、歯科医院には、市販品を使用した結果、問題が生じて相談に来られる患者さんがいらっしゃいます。ある20代の女性は、前歯のわずかな隙間を気にされて、インターネット通販で数千円のマウスピースを購入しました。数ヶ月間、自己流で使用を続けたところ、確かに隙間は少し閉じたように見えたものの、代わりに奥歯がうまく噛み合わなくなり、食事の際に不便を感じるようになったとのことでした。精密検査を行った結果、マウスピースによって前歯が内側に傾斜しすぎたために、奥歯の噛み合わせのバランスが崩れてしまっていたことが判明しました。結局、歯科医院で本格的な矯正治療をやり直すことになり、時間も費用も余計にかかってしまいました。また、別の30代の男性は、下の前歯の軽度のデコボコを治そうと、自分で歯型を採って送るとマウスピースが送られてくるという海外のサービスを利用しました。しかし、送られてきたマウスピースはフィット感が悪く、装着すると歯茎に強い痛みを感じたそうです。それでも我慢して使用を続けた結果、数週間後には歯茎から出血し、一部の歯がグラグラと動揺し始めたため、慌てて歯科医院を受診されました。診断の結果、不適切な矯正力によって歯周組織に炎症とダメージが生じており、一部の歯は歯根吸収の兆候も見られました。このケースでは、まず歯周病治療を行い、歯周組織の安定を待ってから、慎重に矯正治療を再開する必要がありました。これらの事例は決して特殊なものではありません。市販のマウスピースの多くは、個々の歯並びや顎の骨格を考慮せずに作られているため、歯を安全かつ効果的に動かすための適切な力を加えることができません。その結果、歯が意図しない方向に動いたり、噛み合わせがおかしくなったり、歯や歯周組織にダメージを与えたりするリスクが常に伴います。特に、自己判断で長期間使用を続けると、問題が深刻化し、取り返しのつかない状態になってしまうこともあります。安価で手軽に見える市販のマウスピースですが、その裏には大きなリスクが潜んでいることを忘れてはいけません。
市販マウスピースで歯並びが悪化?実際のトラブル事例