外科手術を伴う歯列矯正難しいケースの選択

歯列矯正治療の中でも特に難易度が高いとされるのが、外科手術を併用する「外科的矯正治療」です。これは、歯の移動だけでは改善が困難な、重度の骨格性不正咬合(顎骨の大きさや位置、バランスの大きな不調和)に対して行われる治療法です。例えば、著しい受け口(下顎前突)、極端な出っ歯(上顎前突)、顔の非対称(顎偏位)、または開咬(前歯が噛み合わない)でその原因が顎骨にある場合などが適応となります。外科的矯正治療は、まず術前矯正として、手術後に安定した噛み合わせが得られるように歯並びを整えます。この段階では、一時的に見た目や噛み合わせが悪化することもありますが、手術による顎骨の移動を考慮した歯のポジショニングが重要となります。術前矯正がある程度進んだ段階で、連携する口腔外科医によって顎骨の手術(顎骨切り手術)が行われます。手術は全身麻酔下で行われ、入院が必要となります。手術では、上顎骨や下顎骨、あるいはその両方を骨切りし、計画された正しい位置に移動させてプレートやネジで固定します。手術後は、腫れや痛み、一時的な知覚麻痺などが生じることがありますが、徐々に回復していきます。手術が無事に終了した後、最終的な噛み合わせの調整や歯並びの仕上げを行うために、術後矯正が行われます。この術後矯正によって、より緊密で機能的な噛み合わせを確立し、治療を完了させます。外科的矯正治療は、顎骨の形態と位置を根本的に改善できるため、重度の不正咬合に対して劇的な効果をもたらすことができます。噛み合わせの機能改善はもちろんのこと、顔貌のバランスも大きく改善されるため、患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく貢献します。しかし、外科手術を伴うため、手術そのものに伴うリスク(出血、感染、神経麻痺など)や、入院期間、そして一般的な矯正治療よりも治療期間が長くなる傾向があること、費用も高額になることなどを十分に理解しておく必要があります。また、この治療法を選択するかどうかは、患者さん自身の希望、不正咬合の重症度、年齢、全身状態などを総合的に考慮し、矯正歯科医と口腔外科医が連携して慎重に判断します。治療のメリットとデメリット、リスクについて十分な説明を受け、患者さん自身が納得した上で治療に臨むことが何よりも大切です。