高校2年生のSさんは、長年気にしていた前歯の出っ張りと、八重歯を治すために、念願の歯列矯正を開始しました。治療法は、表側のワイヤー矯正。初めてブラケットとワイヤーが装着された日は、口の中に今までなかった異物が入っている感覚に、戸惑いを隠せませんでした。「とにかく違和感がすごくて、喋りにくいし、唇も閉じにくい感じでした」とSさんは振り返ります。そして、その日の夜から、歯全体が締め付けられるような痛みが始まりました。「ジンジンするような鈍い痛みがずっと続いて、特に何かを噛もうとするとズキッと響くんです。最初の3日間くらいは、ほとんどお粥とかゼリーしか食べられませんでした」。学校の友達には、「矯正始めたんだね、痛そう…」と心配されたり、興味津々に口の中を覗き込まれたりしたそうです。部活動の吹奏楽(クラリネット)も、最初はアンブシュアが安定せず、思うように音が出せなくて落ち込んだと言います。しかし、1週間ほど経つと、あれほど辛かった痛みも徐々に和らぎ、食事も少しずつ普通のものが食べられるようになってきました。そして、治療開始から2週間が過ぎた頃、Sさんは鏡を見て小さな変化に気づきました。「いつも八重歯が当たって気になっていた唇の内側の部分が、ほんの少しだけ当たりにくくなったような気がしたんです。それから、下の前歯のちょっとしたガタガタも、心なしか揃ってきたような…?」。気のせいかもしれないと思いつつも、その小さな変化がSさんにとっては大きな喜びでした。「歯が動いてるんだ!頑張ってるんだ!」と実感できた瞬間でした。1ヶ月検診の日、歯科医師にそのことを伝えると、「そうですね、Sさんの歯は順調に動いていますよ。特に八重歯は、最初の計画通りに少しずつ後ろに下がってきています」と言われ、Sさんは思わず笑顔になりました。痛みや不便さはまだありますが、目に見える変化と歯科医師からの励ましが、Sさんのこれからの矯正治療へのモチベーションを支えています。