歯列矯正を始めて一年が過ぎた頃、私の心は完全に折れかかっていた。長年のコンプレックスだった出っ歯を治すため、勇気を出して始めた治療。でも、一年経っても、私の前歯は頑として元の位置から動こうとしないように見えた。ガタつきは確かになくなった。でも、一番治したかった口元の突出感は、全く改善されていない。むしろ、口を閉じた時のモコっとした感じは、以前よりひどくなっている気さえした。「もしかして、私の歯は動かないタイプなんじゃないか」「このまま治療が終わってしまったらどうしよう」。毎晩、鏡の前でため息をつき、インターネットで「歯列矯正 出っ歯 治らない」と検索しては、ネガティブな情報に落ち込む日々。次の調整日、私は思い切って先生に不安をぶつけてみた。「先生、私の出っ歯、本当に治りますか?もう一年も経つのに、全然下がっている気がしなくて…」。すると先生は、私の歯の模型とレントゲン写真を並べ、穏やかに説明してくれた。「大丈夫ですよ、見てください。ここまでで歯のガタつきを治す準備が整いました。今日から、いよいよ前歯を本格的に後ろに下げるためのゴムかけを始めます。ここからが本番です」。そして、私に小さなゴムの袋を手渡し、「このゴムかけを一日20時間以上、サボらずに頑張れるかどうかが、結果を大きく左右します」と続けた。その言葉に、私はハッとした。ここからが本番。そして、その結果は自分の努力にかかっている。私は心を入れ替えた。地獄のゴムかけ生活が始まった。口は開けづらいし、痛みもある。でも、「これで変わるんだ」と信じて、食事と歯磨き以外の時間は片時も外さなかった。それから三ヶ月後、奇跡は起きた。ふと撮った横顔の写真が、以前と明らかに違う。口元のモコっと感が、すっきりとなくなっている。慌てて鏡を見ると、確かに前歯が後ろに下がっていた。涙が出そうになった。あの絶望的な日々があったからこそ、この変化が何倍も嬉しかった。もし今、同じように不安を感じている人がいるなら伝えたい。あなたの治療も、きっとこれからが本番なのだと。