歯列矯正治療を受ける上で、多くの患者さんが気にされることの一つが「治療期間の長さ」です。一般的に1年半から3年程度かかることもあり、この長期間にわたる治療がネックとなって、矯正をためらう方も少なくありません。そのため、歯科医療の現場では、この治療期間をいかに安全かつ効果的に短縮するかという研究開発が積極的に進められています。その代表的なアプローチの一つが、「光加速矯正装置」です。これは、フォトバイオモジュレーション(PBM)理論に基づき、特定の波長の近赤外線を歯槽骨に照射することで、細胞のミトコンドリアを活性化させ、骨のリモデリング(再構築)を促進し、歯の移動を早める効果が期待されるものです。患者さんが自宅で毎日数分間、マウスピース型装置の上から光を当てるだけでよく、比較的簡便に使用できる点が特徴です。臨床研究では、治療期間を最大で50%程度短縮できる可能性も示唆されていますが、効果には個人差があるとされています。また、外科的なアプローチとしては、「コルチコトミー(歯槽骨皮質骨切除術)」や「PAOO(Periodontally Accelerated Osteogenic Orthodontics)」といった方法があります。これらは、歯を支える硬い皮質骨に意図的に小さな切れ込みを入れたり、骨移植材を併用したりすることで、一時的に骨の代謝回転を高め、歯の移動を加速させるものです。局所麻酔下で行われる比較的侵襲の少ない手術ですが、外科処置であることには変わりなく、適応症例やリスクなどを十分に理解する必要があります。これらの治療期間短縮を目的とした技術は、まだ新しいものも多く、長期的な予後やエビデンスが確立されていない部分もあります。しかし、患者さんの負担を軽減し、より快適な矯正治療を実現するための重要な試みであり、今後のさらなる研究開発によって、より安全で効果的な方法が登場することが期待されています。治療期間の短縮に関心がある場合は、担当の歯科医師に相談し、ご自身の状況に合った選択肢があるかどうかを確認してみると良いでしょう。
加速する歯列矯正治療期間短縮への挑戦