本日は、数多くの症例を手がけてこられた矯正専門医の先生に、患者さんが最も不安に感じる「歯列矯正をしても出っ歯が治らないケースはあるのか」という疑問について、専門的な見地からお話を伺います。先生、単刀直入にお聞きします。歯列矯正で「治らない出っ歯」というのは、存在するのでしょうか。はい、それは「出っ歯の原因によります」というのが、最も正確な答えになります。出っ歯は、大きく二つのタイプに分類されます。一つは、顎の骨の大きさや位置には大きな問題がなく、純粋に前歯が前方に傾いて生じている「歯性の上顎前突」。もう一つは、歯の傾きだけでなく、上顎そのものが前に出ている、あるいは下顎が小さい・後退しているといった、土台となる骨格に原因がある「骨格性の上顎前突」です。歯列矯正だけで劇的な改善が期待できるのは、主に前者の「歯性」の出っ歯です。この場合、抜歯などによってスペースを確保し、前歯を適切な位置まで後退させることで、口元の突出感は大きく改善されます。問題は、後者の「骨格性」の要因が強い場合です。歯列矯正は、あくまで歯を動かす治療です。土台である顎の骨そのものの位置や大きさを変えることはできません。そのため、重度の骨格性の出っ歯の場合、歯列矯正だけで歯並びを整えても、土台である骨格の突出感は残ってしまうため、患者さんが期待するほどの横顔の変化が得られず、「治らなかった」と感じてしまうことがあるのです。これが、歯列矯正単独での「限界」と言えます。では、骨格性の出っ歯は、もう治す方法はないのでしょうか。いえ、そんなことはありません。そのための選択肢が「外科的矯正治療」です。これは、歯列矯正と、顎の骨を切って位置を動かす外科手術を組み合わせる治療法です。手術によって上顎を後退させたり、下顎を前進させたりすることで、骨格レベルでの根本的な改善が可能になります。もちろん、手術には入院が必要ですし、相応のリスクも伴います。しかし、重度の骨格性の出っ歯に悩む方にとっては、人生を変えるほどの劇的な効果をもたらす、非常に有効な治療法です。大切なのは、治療前の精密検査で、ご自身の出っ歯の原因が「歯性」なのか「骨格性」なのかを正しく診断してもらうこと。そして、歯列矯正だけでどこまで改善できるのか、その限界はどこにあるのかを、医師と十分に話し合い、納得した上で治療法を選択することです。
歯科医師に聞く治らない出っ歯は存在するのか?骨格性の壁