歯列矯正治療を検討する際、歯並びや噛み合わせの改善はもちろんのこと、口元の審美的な変化に期待を寄せる方は多いでしょう。そして、その中には「口元が引っ込めば、鼻の形も良く見えるようになるかもしれない」という淡い期待を抱く方もいらっしゃるかもしれません。確かに、歯列矯正によって口元の突出感が改善されることで、相対的に鼻が高く見えたり、鼻の下のラインがすっきりしたりといった好ましい変化が生じる可能性はあります。しかし、ここで強調しておきたいのは、歯列矯正が鼻の形そのものを直接的に変えるわけではないということ、そして、その変化の程度には大きな個人差があるため、過度な期待は禁物であるということです。歯列矯正の主目的は、あくまで歯と歯槽骨(歯を支える骨)を動かし、適切な歯並びと噛み合わせを確立することにあります。鼻の骨格や軟骨組織に直接アプローチするものではありません。したがって、鼻の高さや幅、鼻先の形といった鼻自体の形状を根本的に変えたいという希望がある場合、歯列矯正だけでそれを達成することは困難です。そのような場合は、美容外科や形成外科といった専門分野での鼻の美容整形手術を検討する必要があります。歯列矯正で期待できる鼻の印象の変化は、あくまで口元の改善に伴う「副次的」な効果であり、その現れ方には大きな個人差があります。元の歯並びの状態(特に出っ歯の程度)、顎の骨格、顔全体のバランス、皮膚や軟部組織の厚み、そして個人の美的感覚など、多くの要因が複雑に絡み合って結果に影響します。例えば、非常に大きく前歯が突出していた方が、抜歯を伴う矯正治療で口元を大幅に後退させた場合には、鼻の印象にも顕著な変化が見られるかもしれません。しかし、歯の移動量が少ない場合や、元々口元の突出感がそれほど強くない場合には、鼻の印象にほとんど変化を感じないことも十分にあり得ます。また、「変化した」と感じるかどうかは、ご本人の主観や期待値にも左右されます。インターネット上の体験談や症例写真を見て、「自分もきっとこうなれるはずだ」と過剰な期待を抱いてしまうと、実際の変化が期待に及ばなかった場合に、大きな失望感を覚えてしまうことになりかねません。
歯列矯正後の鼻の形変化に過度な期待は禁物