歯列矯正治療は、単に歯並びを整えるだけでなく、口腔機能の改善にも大きく貢献します。その一つとして、噛み合わせの改善や口元の閉鎖不全の解消によって、長年の口呼吸の習慣が鼻呼吸へと改善されるケースがあります。この鼻呼吸への移行が、間接的にではありますが、顔貌、特に鼻の周囲の印象に好ましい影響を与える可能性が指摘されています。口呼吸が習慣化していると、常に口が開いた状態になりやすく、口輪筋(口の周りの筋肉)が緩みがちになります。また、舌の位置が下がり(低位舌)、気道確保のために下顎が後退したり、顔が下方に伸びたような印象(アデノイド様顔貌)になったりすることもあります。さらに、口呼吸では鼻のフィルター機能が働かないため、乾燥した冷たい空気が直接喉に入り込み、感染症のリスクを高めるだけでなく、鼻腔自体の発達にも影響を与える可能性が考えられています。歯列矯正治療によって、例えば前歯の突出が改善されて唇が閉じやすくなったり、噛み合わせが安定して顎の位置が整ったりすると、自然と鼻で呼吸しやすくなる環境が整います。鼻呼吸が習慣化すると、まず口輪筋が適切に使われるようになり、引き締まった口元になります。これにより、間接的に鼻翼(小鼻)の広がりが抑えられたり、鼻の下から上唇にかけてのラインがすっきりしたりといった変化が期待できることがあります。また、舌が正しい位置(上顎の口蓋部分に接触する)に収まるようになると、口腔周囲筋のバランスが整い、顔全体の筋肉の緊張が取れて、より調和の取れた表情になることもあります。特に成長期のお子さんの場合、早期に口呼吸から鼻呼吸へ移行させることは、顎顔面の健やかな発育にとって非常に重要です。鼻呼吸によって鼻腔が適切に刺激され、発達が促されることで、将来的な鼻の形態にも良い影響を与える可能性が示唆されています。ただし、これらの顔貌への影響は、劇的なものではなく、また個人差が大きいことを理解しておく必要があります。歯列矯正治療だけで必ずしも口呼吸が完全に改善するわけではなく、場合によっては耳鼻咽喉科的なアプローチや、舌や口唇の筋機能訓練(MFT)が必要となることもあります。