歯列矯正治療によって鼻の形そのものが変わるわけではありませんが、口元の変化が鼻の印象に影響を与えることは確かです。そのメカニズムを理解するためには、顔のパーツの相対的な関係性と、視覚的な効果について考える必要があります。私たちの顔は、目、鼻、口、顎といった複数のパーツが複雑に組み合わさって構成されており、それぞれのパーツの大きさや位置、バランスが全体の印象を決定づけています。歯列矯正で最も大きな変化が起こるのは、当然ながら口元です。特に、前歯が前方に突出している出っ歯(上顎前突)の場合、唇も前歯に押されて前に突き出た状態になっています。この状態では、鼻の下から上唇にかけての角度(鼻唇角)が小さく、口元がこんもりとした印象を与えがちです。歯列矯正によって前歯を後方に移動させると、それに伴って唇も自然な位置に収まり、口元の突出感が改善されます。すると、鼻唇角が適切な角度に広がり、鼻の下がすっきりとした印象になります。この変化によって、今まで口元に隠れていた鼻の付け根部分が見えやすくなったり、相対的に鼻が高く見えたりする効果が生まれます。また、Eライン(エステティックライン)と呼ばれる、鼻の先端と顎の先端を結んだ線の内側に唇が収まることが、美しい横顔の一つの基準とされています。出っ歯の場合、唇がEラインよりも前に出てしまうことが多いのですが、歯列矯正で口元が引っ込むことで、Eラインが整い、横顔のシルエットが美しくなります。このEラインの変化も、鼻の印象をより良く見せる要因の一つです。逆に、受け口(下顎前突)で下顎が前方に突出している場合、鼻が相対的に低く見えたり、顔全体が平坦な印象になったりすることがあります。歯列矯正や、場合によっては外科手術を併用して下顎を後退させ、上下の顎のバランスを整えることで、顔の立体感が生まれ、鼻の印象も変わることが期待できます。さらに、噛み合わせの改善に伴い、口輪筋(口の周りの筋肉)や表情筋の使い方が変化することも、間接的に鼻の印象に影響を与える可能性があります。
口元の変化が鼻の印象に与える影響メカニズム